5歳児健診ポータル

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93%の高い受診率。園医方式で実現する、連続性のある取組み

福岡県宗像市

鳥取県倉吉保健所 所長

小倉 加恵子

福岡県宗像市で実施されている園医方式での5歳児健診を取材しました。

一人の小児科医の提案から一年、全市実施に

宗像市では、2012年から園医方式での5歳児健診が開始されました。

その前年の2011年にある小児科医の提案を受けて、宗像市のモデル事業として数か所の園で実施しました。保護者や園の先生方からの「よかった」という声を踏まえて、市役所の担当者が医師会に赴き、小児科医会の先生方との話し合いを通じて園医の協力を得られることになりました。

市内の保育所・認定こども園・幼稚園等(以下、保育所等)は、24か所あります。保育所等とも話し合いを通じて全面的な協力が得られることとなり、2012年から全市での実施に至りました。

園医方式の実際

園医方式の5歳児健診は、保育所等で実施される定期健診の機会にあわせて実施します。

園医の診察時間が限られていることから、対象となるこどもの情報を短時間で把握しやすくするため、事前の情報整理が重要です。市が過去の健診等で得られた情報やフォローアップ状況、発達支援等のサービス利用状況などを分かりやすくまとめておきます。また、保護者の心配事項、保育所等での活動の様子や気になることなども整理しておきます。保育所等とは事前に話し合い、診察時に留意するポイントを分かりやすく示すように工夫しています。

園医診察では、診察を通じて得られた所見を定期健診及び5歳児健診の様式に記載し、気になることを市の保健師に伝えます。例えば、こどもとの会話を通じて未熟構音に気づいた場合や、指示理解が苦手で落ち着きがない場合等は、健診後のフォローアップにつなげるように指示します。
健診後カンファレンスは、コロナ禍以降、基本オンラインで開催しています。市役所の健診担当者、保育所等の担任が健診で得られた所見と園医からの指示をもとに総合的な対応策を検討して、フォローアップの計画を立てます。

健診には保護者の同席はありません。健診実施後1週間以内に、健診の結果を書面でお知らせします。フォローアップの対象となったこどもの保護者に対しては、1~2か月以内に電話で説明をして、「発達相談」を紹介します。医療受診が必要な場合や早い対応が必要な場合は、通知が届くころを目安に電話をします。

市では「発達相談」を実施しています。1~18歳の児童を対象として、1名に対して1時間程度の相談支援を実施します。スタッフは、保健師、言語聴覚士、公認心理師、小学校教諭の総勢7名が対応します。5歳児健診後のフォローアップとしても活用し、SDQなどの質問紙も使用しています。

また、年に2回行う巡回相談の機会に保育所等でのかかわり方や状態の変化などの確認や相談をしたり、園訪問による就学連携を実施したりしています。

市が中心となった保育所等や学校関係者、医師会との密な連携

宗像市では、2009年に発達支援センターが設置され、その時から巡回相談支援事業を開始しています。また、保育士の理解向上やスキルアップのための研修会、保育所等訪問支援事業、保育所等との連絡会など市の事業を活用して、保育所等との連携を深めています。保育所等の先生方からは、「5歳児健診を負担とは全く思っていない、とても有難い機会になっている。」という声がありました。

医師会も、ペアレントトレーニングを開催するなど、とても協力的です。

また、保育所等と小学校と市とが連絡会を持ち、こどもたちの就学後の適応状態などについても共有しています。保育所等では問題のなかったこどもが、就学後の適応に困っているケースもあり、保育所等での取り組みに活かす大切な機会になっています。

高い受診率

未就園児や、市外の保育所等に通園するこどもに対しては、集団健診として実施している3・4か月児健診あるいは3歳児健診の機会に、集団健診として5歳児健診を実施して、対象者全員が受診できるように工夫しています。令和6年度の全体の受診率は93%程度となっています。

取材をして感じたこと

5歳児健診を実施するうえで、多くの自治体において医師確保が一つのハードルになっています。園医の協力を得ることで、医師を確実に確保できることは大きなメリットと感じました。また、定期健診で毎年こどもたちを診察していたり、かかりつけ医だったりすることで、経年的な変化を把握した連続性のある取組みとなっています。こどもたちにとっても、顔見知りの”自分の先生”に診察してもらえるので、緊張することなくいつもの姿で受診できていることが印象的でした。

園医方式の場合は、健診に保護者が同席しないため、支援を必要とする場合の連絡はより丁寧にして、確実にフォローアップできる体制づくりが必要です。宗像市の場合は、長年にわたって発達相談の事業や巡回相談支援事業など、様々な形で保育所等と連携している基礎があることでこの課題に対応できていると思いました。

市内24の保育所等を、1か所について1日がかりで対応されています。こどもたちが健やかに就学できるようにと願いを込めて丁寧に対応される姿を拝見し、保健師をはじめとする宗像市の健診担当者の熱い思いを感じた視察となりました。 

福岡県宗像市の5歳児健診実施データ

自治体名
福岡県宗像市
設置区分
市(10万人未満)
補助金利用の有無
あり(母子保健衛生費国庫補助金)
年間出生児数
601〜700人
実施形式
園医方式での集団健診
実施開始年度
2012年
実施回数
年24回
1回の人数
20〜30名
参加職種
小児科医 / 小児科医以外の医師 / 保健師 / 言語聴覚士 / 心理職 / 行政事務職 / その他
医師の確保方法
園医に依頼
健診の流れで
実施している事柄
  • 事前に保育所・園からこどもの様子について情報を得ている
  • 保護者からSDQやその他アンケートを実施している
  • 保育所・園からSDQやその他アンケートを実施している
  • 後日に専門相談(子育て相談・栄養相談・療育相談・心理発達相談・教育相談等)を実施している
  • 健診後カンファレンスを実施している
専門相談
子育て相談 / 療育相談 / 心理発達相談
ニーズの高い
専門相談
心理発達相談
専門相談の後の対応
  • 医療機関紹介
  • / 療育機関紹介
  • / 通園施設でフォロー
  • / 園・保育所との情報共有
こども一人あたりの
医師の診察時間
3-5分
保健師による1回の
個別相談時間
20分以上
健診後カンファレンスへの
医師の参加
時に参加している
5歳児健診のメリット
  • 発達課題の抽出
  • / 保護者の不安への対応
  • / 就学への指導対応

このサイトの運営者

本サイトは、令和6年度こども家庭科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「こどもの健やかな成長・発達のためのバイオサイコソーシャルの観点(身体的・精神的・社会的な観点)からの切れ目のない支援の推進のための研究」により制作されました。

研究代表者:永光 信一郎(福岡大学医学部小児科 主任教授)

Eメール:snagamit@fukuoka-u.ac.jp