5歳児健診実施とともに、集団健診後の就学プレ教室を抱き合わせてスタート
埼玉県幸手市


金城大学 看護学部 准教授
子吉 知恵美
埼玉県幸手市で実施されている5歳児健診を取材しました。
5歳児健診の導入に向けた「意見交換会」を実施
幸手市では、令和4年度から5歳児健診実施を検討し、令和5年度に「幸手市5歳児健診の導入に向けた意見交換会」を開催しました。
市内小児科医、保育所(園)、幼稚園、児童発達支援事業所などに声をかけ、就学を取り巻く現状や親子が安心して就学を迎えるために必要とされることは何かについて意見交換を行いました。
意見交換会には市の小児保健の窓口となってくださっている小児科医1名、保育所(園)、幼稚園、児童発達支援事業所の代表者が出席してくださいました。
小児科医師の協力が得られることとなった後は、既存の乳幼児健診の従事者を中心にスタッフを確保し、新たに必要だった公認心理士は「埼玉県公認心理士会」や「ハローワーク」のHPで求人し、事後フォローの作業療法士は個別にお願いして人員を確保しました。
必要な支援につなげるため、就学プレ教室を開始
また、5歳児健診実施にあたって近隣の実施自治体2カ所に見学に行きました。
健診方法とともに健診後のフォロー教室も参考にさせていただき、幸手市でも健診と同時に就学プレ教室としてフォロー教室も開始しました。
就学プレ教室は、保護者が子どもの発達に関する気づきがないケースについて気づきを得る機会とすることや発達障害としてはグレーゾーンであり、もう少し経過観察をしたいケースについて健診後に月1回、3回までの回数制限がある教室として実施しています。気づきを得られる機会として、保護者にフィードバックをしながら実施しています。
3歳児健診以後にスクリーニングの機会がなかったため、保護者の相談がない場合は支援につなげることができませんでした。しかし、5歳児健診実施を機に、就学に向けて必要な支援につなげることができる機会として位置付けて実施できるようになりました。
今後の課題と保護者の声
今後の課題としては、子どもの所属先や学校教育課との連携の仕方、日本語を母語としない保護者と子どもへの支援についてです。
特に英語圏・中国・ベトナムなど多国籍の方向けの問診表がないため、健診時に翻訳のためのタブレットを駆使して確認をする必要があり、大変時間がかかっています。
また、子どもの特性に応じ適切な支援を行う機関にどのようにつなげるかが大きな課題となっています。
令和6年4月から開始した5歳児健診の受診率は、現在88%です。5歳児健診をはじめてから、保護者の方からは「子どもの発達の課題について気づけてよかった」という声も聞かれました。
取材をして感じたこと
5歳児健診を開始しようと思ったときに医師の確保ができず、予定より1年遅れで開始になったということで、他の自治体でも課題としてあがっている「医師の確保の問題」は大きいと感じました。
しかし、協力してくださる医師を確保できればスムーズに開始ができること、近隣の5歳児健診実施自治体に倣って健診後のプレ就学教室と抱き合わせとして開始することは、有効な方法ではないかと感じました。
また、プレ就学教室は、気づきを得ることや経過を見る場としての位置づけであり、1回で判断できないケースについての猶予期間として3回までの回数制限がありました。これは保護者にとってもハードルが下がるように感じました。
意見交換会の開催や、医師をはじめとした専門スタッフの確保、実施自治体の見学と着実に進められているところは、これから5歳児健診を実施する自治体のモデルになるのではないでしょうか。
幸手市就学プレ教室との抱き合わせでのスタートは、健診後のつなげ先に困っている自治体様へもお伝えしたいと思いました。
埼玉県幸手市の5歳児健診実施データ
- 自治体名
- 埼玉県幸手市
- 設置区分
- 市(10万人未満)
- 補助金利用の有無
- あり(母子保健衛生費国庫補助金)
- 年間出生児数
- 101〜200人
- 実施形式
- 保健センター等での集団健診
- 実施開始年度
- 2024年
- 実施回数
- 年12回
- 1回の人数
- 20〜30名
- 参加職種
- 小児科医 / 保健師 / 保育士 / 心理職 / 看護師 / その他
- 医師の確保方法
- 地区の医師会に依頼
- 健診の流れで
実施している事柄 -
- 健診当日に保健指導(育児環境支援・生活習慣・育てにくさへの対応等)を実施している
- 健診当日に専門相談(子育て相談・栄養相談・療育相談・心理発達相談・教育相談等)を実施している
- 後日に専門相談(子育て相談・栄養相談・療育相談・心理発達相談・教育相談等)を実施している
- 健診後カンファレンスを実施している
- 専門相談
- 子育て相談 / 心理発達相談
- ニーズの高い
専門相談 - 心理発達相談
- 専門相談の後の対応
-
- 療育機関紹介
- / 教育機関紹介
- / 園・保育所との情報共有
- / その他
就学プレ教室 - こども一人あたりの
医師の診察時間 - 5-10分
- 保健師による1回の
個別相談時間 - 5-10分
- 健診後カンファレンスへの
医師の参加 - 参加している
- 実施の上で感じる課題
- ・待ち時間が長くなってしまうこと ・5歳児健診から就学プレ教室へのつなぎ
- 5歳児健診のメリット
-
- 発達課題の抽出
- / 保護者の不安への対応
- / 就学への指導対応