5歳児健診ポータル

supported by こども家庭庁

こどもは楽しく、保護者は安心できる健診の実施

埼玉県和光市

獨協医大埼玉医療センター

井上 建

和光市の5歳児健診は、現在悉皆で行われている5歳児健診のなかで最大規模で実施されている健診である。

毎月60名前後のお子さんが一堂に会する会場は、笑顔いっぱい、元気いっぱいの5歳児とその保護者、5歳児健診を運営するスタッフの方で活気にあふれていた。

こども家庭庁の通達を受け、「5歳児健診を市民の皆さんに届けるためにはどうすればよいのか」と試行錯誤し準備された和光版5歳児健診は、4か月弱で準備されたとは思えないほど工夫が凝らされており、健診の入り口から出口までがデザインされていることが印象的だった。

咀嚼パペット「みいちゃん」を活用した健診の入り口

和光版5歳児健診の入り口として取り入れられていたのが、歯科衛生士スタッフによる講話である。この講話には15名前後のこどもたちが集団で参加する。

咀嚼パペットの「みいちゃん」

咀嚼パペットの「みいちゃん」を操りながら話す歯科衛生の話は面白く、子どもたちは興味津々に話を聴き、スタッフが「右手を挙げて”はい”と返事をしてね」と言うと、元気に手をあげる。

さらに、その場で立って片足立ちの指示を出し、子どもたちは楽しそうに片足立ちをする。ご察しの通り、この講話は単なる歯科衛生指導ではなく、集団行動の観察、指示理解、右手左手の理解、粗大運動など、5歳児健診で必要な項目を取り入れた健診の入り口だった。

集団で興味を引く話を聴くことで自然と健診に引き込まれ、集団で行われることでこどもたちの緊張は取れていくのが印象的だった。

保護者に寄り添い安心させてくれる小集団、ひまわりグループ

5歳児健診の出口として取り入れられていた工夫のひとつが、ひまわりグループと呼ばれる、子育てサロンとペアトレを組み合わせた機能を持つ小集団のフォローである。担当の保健師と保育士によって月に1回行われ、健診で気になった子、発達等に心配がある保護者など数名の親子が参加する。

複数回の参加で終了する方、経過中に受給者証を取って療育を受け始める方、医療機関につながる方など、参加後の経過は様々であるそうだが、健診の場で方針を決定する必要が無く、スクリーニングとして機能しており、現場で有用な取り組みだと感じた。

5歳児健診が、健やかさを評価する健診としての役割を全うするためには、工夫が必要である。特に、対象が多い自治体となれば尚更だろう。

パペットを用いた歯科講話、健診後の小集団フォローなど和光市で行われている工夫を凝らした取り組みを紹介した。

和光市ネウボラ課の保健師である本山さんにインタビューを行いました

Q : 5歳児健診を開始した時期を教えてください。

2024年4月からです

Q : 5歳児健診を開始する、開始しないなど議論はありましたか?

国(こども家庭庁成育局長通知)が指針を出した令和5年末から準備を開始しました。準備期間は3-4か月と短い中で、「5歳児健診を市民の皆さんに届けるためにはどうすればよいのか」「どうすれば実施出来るのか」と前向きに議論を重ねました。

Q : そのような中で進めることができた後押しは何だったのでしょうか?

そうですね。それはやはり、こども家庭庁の指針があり補助金が付いたことだと思います。そして専門の先生のサポートと上司の理解でしょうか。

Q : 開始した際の背景について教えてください。何が5歳児健診開始に影響したのでしょうか?

近隣の市町村では、戸田市が5歳児健診を行っていたので、見学をさせていただき実際の流れなどを参考にしました。しかし、戸田市はピックアップ健診だったのに対し、私たちは悉皆で実施する方針でしたので、そのまま流用というわけにはいきませんでした。

Q : 準備期間で何が一番大変でしたか?

まず何より準備期間が短かったことが一番大変でした。最初から完成度の高いものを準備することは難しく、毎回改善しながら進めている状態です。

Q : 準備をするなかでネックになったのは何だったでしょうか?

それは間違いなく「ひと」ですね。私たちは運が良かったと思います。と言いますのも、朝霞地区医師会に所属する発達を専門としている先生の協力がいただけたからです。その先生と医師会の協力がなければ実施自体が難しかったと思います。

Q : 他にはありますか?

そうですね。ほかには場所の確保と予算ですね。補助金が付きますが、現状は補助金だけでは賄えない事業です。それから問診票の準備も大変でした。こども家庭庁の案を土台として、議論しながら修正して準備しました。

Q : 人員確保についての課題と対策を教えてください。

現在5歳児健診を担当いただいているのは、小児科医、内科医、小児神経科医の3名です。私たちの地区の朝霞地区医師会から紹介いただきご協力いただいています。しかし、5歳児健診のほかにも3歳児健診など複数の健診があり、お忙しい中ご快諾いただいた医師の皆様に感謝しています。

Q : 他の職種の確保はどうされたのでしょうか?

職種としては、医師、看護師、保健師、心理士、歯科衛生士、保育士、栄養士があります。3歳児健診など他の健診ですでに協力いただいている方に声をかけさせていただきました。看護師と保健師については広報で募集し、従事者の確保につなげました。

Q : 医師会や医会の先生の協力は得られましたか?

これまでの健診業務等で医師会の先生方とは関係性ができていたこともあり、十分協力をいただけました。私たちの地区の医師会は、和光市以外に朝霞市、志木市、新座市の4市を統括しています。地区によって、医師、歯科医師の偏在はあると思いますので、協力が得られづらい地域もあったのかもしれません。

Q : 管理職の方の理解と協力は得られましたか?

令和6年度から開始する方針で議論が始まったので、実施に向けて理解と協力はありました。健診の会場の準備では、物品の運搬や会場設営などの協力をいただいています。ただ、健診従事者の人数などについては、現場の意見と管理職とで予算に関する意見がぶつかることもありました。

Q : 保護者の方への広報はどうされていますか?

個別に郵送で通知のほか、市のホームページに掲載しています。市が発行している子育てガイドやネウボラガイドの掲載は、準備期間が短かったため間に合いませんでしたが、来年度はこれらの冊子にも掲載する予定です。

Q : 参加状況(対象人数あたりの参加%)はいかがでしょうか?

現在、5歳児健診は月に1回集団健診で実施しています。これまで(4-10月)の参加者は47-71名でした。欠席の方には個別ではがきを郵送し、それでも連絡がない場合は個別に連絡してフォローしています。

Q : 参加した方の反応はどうですか?お母さんやお子さんはどんな表情をされていますか?

保護者の関心の高さを実感しています。冊子に載っていなかったのに、個別通知が届いたら市のホームページを見て来て下さり「何でやるんだ」なんてクレームは一切受けていません。準備している私たちとしては本当にありがたいです。平日実施にもかかわらず、みなさん都合をつけて来てくださるので、意識の高さを感じていますし、私たちも緊張感をもって取り組んでいます。

Q : 素晴らしいですね。実際の現場ではどうですか?

虫歯のチェックだけだと思って来たのに、療育につながるなんて思わなかったって落ち込む方もいらっしゃいます。保護者によっては、改めてこどもの発達を他の子と見比べる機会になって、うちの子はできないんだって思うこともあるでしょうし。それでも、受けて良かったというお答えもいただいています。健診会場では、こどもたちは、導入時の栄養や歯の講話を聞いている時から笑顔が見られます。

Q : 5歳児健診の実施後、どのような成果や影響が見られましたか?市民の方から何か意見は出ていますか?

やってよかった、と言っていただいていますし、保護者の方の間でも話題になっているとお伺いしました。具体的なお話までは聞く機会はないですが、継続的に受診率は高く推移しているので、きっと保護者の間でも一定の評価はいただいているのかなと思っています。

Q : 事後相談・健診後のフォローアップ体制が大変だと思います。何か困られていることや、今取り組まれていることありますか?

和光市の健診では、最初に小集団で栄養士と歯科衛生士の講話を聴いてもらいます。その後、粗大運動や指示理解などについてチェックします。これらの過程で気になる方のみ発達評価、例えば必要なケースは、心理相談で新版K式の一部を行ったりします。結果として、要フォローとなった方は、個別にお話をして、後日意見書をお渡しして、療育に繋がることもあります。

療育につながるまでの間や、繋がらないまでもフォローが必要と判断したお子さんは、月に1回、ひまわりグループと呼んでいる(小集団)にお誘いしてフォローしています。保育士が遊びを通じてお子さんの自己肯定感を高め、その間に保健師は、保護者の方とグループでお話ししながらお子さんへの声掛けのアドバイスなどをしています。保育園や幼稚園に電話をして情報収集や電話でのフォローをすることもあります。医療機関に直接相談となるケースもありますが、多くはありません。

Q : 保健師さんが「5歳児健診をやってよかった」と思われる瞬間はどんな時ですか?

療育の必要性を説明し「そうですよね」と理解いただき、早期の介入につながるのを実感できるのは良かったと思います。説明を受けた8-9割の方は、フォローにつながっていると感じています。それから上司からも評価してもらっていることも、もちろんうれしいです。

Q : 特に成功したと感じている取り組みや工夫について教えてください。

さきほど説明したひまわりグループでは、実施に当たって集団療育の見学など行いました。また、5歳児健診の現場では、次にやることが分かるように掲示を心がけています。子どもにも目を向けてもらえるよう和光市のゆるキャラの「わこうっち」のイラストを使っています。

Q : 改善が必要だと感じている点、もっとこんな風にできたらいいと思う点ありますか?

人手が少なくて時間がかかることです。養育相談で子どもとの関わり、例えばかんしゃくの対応等についてお話すると、それに満足いただくことがあります。それで、養育相談に来た方だけでなく、もっと多くの方に親になるための学びやこどもへの対応などをお伝えする機会を持てればと思っていまして、5歳児健診などを活用できないか考えているところです。

Q : 今から開始する自治体さんに先輩としてアドバイスありますか?

5歳児健診は、こどもの特性をその場で、ときには集団の中でみることができる点が他の健診と違うと感じています。ほとんどのお子さんがすでに幼稚園などの集団に入っていることもあり、支援の必要性を保護者に感じてもらいやすいと思います。5歳児健診で支援が開始されれば、子どもの社会性の向上にもつながると思います。『5歳児健診は大切なもの』と伝えたいです。

埼玉県和光市の5歳児健診実施データ

自治体名
埼玉県和光市
設置区分
市(10万人未満)
補助金利用の有無
あり(母子保健衛生費国庫補助金)
年間出生児数
601〜700人
実施形式
保健センター等での集団健診
実施開始年度
2024年
実施回数
年12回
1回の人数
50名以上
参加職種
小児科医 / 小児科医以外の医師 / 保健師 / 保育士 / 心理職 / 看護師 / 栄養士 / 歯科医師・歯科衛生士 / 行政事務職
医師の確保方法
地区の医師会に依頼
健診の流れで
実施している事柄
  • 事前カンファレンスを実施している
  • 事前に保育所・園からこどもの様子について情報を得ている
  • 保護者からSDQやその他アンケートを実施している
  • 健診当日に保健指導(育児環境支援・生活習慣・育てにくさへの対応等)を実施している
  • 健診当日に専門相談(子育て相談・栄養相談・療育相談・心理発達相談・教育相談等)を実施している
  • 後日に専門相談(子育て相談・栄養相談・療育相談・心理発達相談・教育相談等)を実施している
  • 健診後カンファレンスを実施している
健診の流れについての工夫
診察を効率化するため、発達のスクリーニングを問診にて保健師が実施している。早期に療育につながることのできないお子さんに対し、集団での行動観察教室を実施している。
専門相談
子育て相談 / 栄養相談 / 心理発達相談 / その他
歯科衛生士相談
ニーズの高い
専門相談
子育て相談
専門相談の後の対応
  • 医療機関紹介
  • / 療育機関紹介
  • / 言葉の教室
  • / その他
  • 心理相談, 集団での行動観察教室
こども一人あたりの
医師の診察時間
3-5分
保健師による1回の
個別相談時間
5-10分
健診後カンファレンスへの
医師の参加
参加していない
5歳児健診のメリット
  • 発達課題の抽出
  • / 保護者の不安への対応
  • / 未診断の身体疾患の発見

このサイトの運営者

本サイトは、令和6年度こども家庭科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「こどもの健やかな成長・発達のためのバイオサイコソーシャルの観点(身体的・精神的・社会的な観点)からの切れ目のない支援の推進のための研究」により制作されました。

研究代表者:永光 信一郎(福岡大学医学部小児科 主任教授)

Eメール:snagamit@fukuoka-u.ac.jp