不可能を可能にした熱意の融合ー行政と医会の連携ー
山形県山形市
福岡大学医学部小児科 主任教授
永光 信一郎
2024年4月、大手新聞社Webサイトに「山形市1か月児と5歳児の健診スタート」と記事が掲載された。 「見学してみたい…」と思い、山形市に連絡をいれてみた。
「開始したばかりで、体制についても改善しながら実施しており、見学していただく程では…」
今、まさに様々な課題に直面されておられるだろう。今を見たい。
見学受入れを悩まれる中、無理なお願いを受け入れていただいた。
取材を受けていただいたのは、山形県山形市母子保健課の武田さん。
健診の実施に至るリアルな困難、それをどう乗り越えたかについてお話いただいた。
年間50回の健診日の新設。不可能に見える
人口25万人。2023年の出生数1,400人。
一度の健診人数を30人としても、年間50回の健診日の新設が必要。
「とても無理だ」と、行政現場の誰もが思った。
最初に、実施に向けて相談したのが、小児科医会の先生だった。
「なんとかならんだろうか」「俺たちも人(健診医)を探してみる」
出来ない理由を考えるのではなく、どうしたら悉皆の5歳児健診ができるのか、皆で考えた。
「小児科医会の支援は背中を押してくれた」と担当保健師は当時を回想する。
もしかしたら可能かもと、保健師が検討した方法は、これまでの幼児健診の回数を減らすこと。少子化で一回の健診人数が徐々に減ってきている。ならば、一回の健診人数を増やし、通常の健診回数を減らせば、5歳児健診の時間と場所を確保出来るかもしれない。
ちょうどその頃、小児科医会から人が確保出来たと、連絡が入った。
医会会長が頭を下げ回り、人を集めてくれた。
たどり着いた、健診当日。
健診当日、29組の親子が健診会場に現れた。8組が心理相談に回った。
事前カンファレンスで要支援を想定していたケースがある一方、支援を想定していなかったケースもあった。子育て、こどもの発達を心配して泣きだす母親もいた。
行政と小児科医会の熱意から始まった、山形市の5歳児健診。
「これからです。」「これからいろいろと検討していきます。」
保健師さんは笑顔で応えてくれた。
山形県山形市の5歳児健診実施データ
- 自治体名
- 山形県山形市
- 設置区分
- 中核市
- 補助金利用の有無
- あり(母子保健衛生費国庫補助金)
- 年間出生児数
- 1,001人〜
- 実施形式
- 保健センター等での集団健診
- 実施開始年度
- 2024年
- 実施回数
- 年53回
- 1回の人数
- 30〜40名
- 参加職種
- 小児科医 / 保健師 / 心理職 / 看護師 / 栄養士 / 行政事務職
- 医師の確保方法
- 地区の医師会に依頼
- 医師確保の工夫
- 健診導入にあたり小児科医会の代表の医師に相談し、新たに従事できる医師を確保していただいた。
- 健診の流れで
実施している事柄 -
- 事前カンファレンスを実施している
- 事前に保育所・園からこどもの様子について情報を得ている
- 健診当日に保健指導(育児環境支援・生活習慣・育てにくさへの対応等)を実施している
- 健診当日に専門相談(子育て相談・栄養相談・療育相談・心理発達相談・教育相談等)を実施している
- 後日に専門相談(子育て相談・栄養相談・療育相談・心理発達相談・教育相談等)を実施している
- 健診後カンファレンスを実施している
- 専門相談
- 子育て相談 / 栄養相談 / 心理発達相談
- ニーズの高い
専門相談 - 心理発達相談
- 専門相談の後の対応
-
- 保健所でフォロー
- / 医療機関紹介
- / 療育機関紹介
- こども一人あたりの
医師の診察時間 - 3-5分
- 保健師による1回の
個別相談時間 - 10-20分
- 健診後カンファレンスへの
医師の参加 - 時に参加している
- 実施の上で感じる課題
- 就学に向けた教育委員会との連携、健診後のフォロー体制としての発達相談枠の確保
- 5歳児健診のメリット
-
- 生活習慣の指導
- / 発達課題の抽出
- / 保護者の不安への対応